平成27年度活動報告

平成27年度の観測航海活動について

  • (1)ブルーフィン号/NOAA-PMEL航海(2015.8.28~9.10)
       西部北太平洋亜熱帯海域
       KEOセジメントトラップの回収・再設置

  • (2)新青丸航海(KS-15-13: 2015.10.6~10.16)
       福島沖
       F1セジメントトラップの回収・再設置
       (原発事故由来放射性核種の調査)

  • (3)みらい(MR15-05:2015.12.22~2016.1.12)
       東部インド洋海域
       海洋大気エアロゾルと気候・生態系との関連評価

トピックス

(1)西部北太平洋亜熱帯海域の生物生産を支える栄養塩供給過程の解明
   ーKEOにおけるセジメントトラップ実験とNOAA-KEO表層ブイデータの解析ー

2015年8-9月に実施されたNOAA航海に参加し、時系列式セジメントトラップを回収・再設置。セジメントトラップ試料の化学分析を実施しました。 NOAA-KEO表層ブイで取得された気象データ、海洋物理データ、さらに衛星データを解析し、台風の擾乱や中規模渦、大気エアロゾルによる栄養塩供給の可能性について解析しています。


(2)海洋大気エアロゾルの海洋生態系への影響評価

エアロゾル溶出実験

エアロゾルが溶出した海水が海洋生態系に及ぼす影響を評価するため、KEO海域の貧栄養海水にエアロゾル溶出物を添加しての植物プランクトン培養実験を開始しました。

エアロゾル添加による植物プランクトン増殖応答実験

東部インド洋観測航海

東部インド洋での観測航海(MR15-05)に参加し、植物プランクトンの組成分析および一次生産活性を測定しました。東部インド洋海域における、海洋生態系への大気エアロゾルからの栄養塩沈着や湧昇による栄養塩供給の影響を評価します。

植物プランクトン一次生産活性の測定実験

(3)中国科学院南海海洋研究所の招聘研究員(E. Siswanto)

2015年8月24-9月25日の間に中国科学院南海海洋研究所にて客員研究員として共同研究を実施し、台風通過や気候変動が南シナ海の植物プランクトン現存量に及ぼす影響を調べました。

台風通過に伴う海面水温、クロロフィルの変化。
クロロフィル(図a)、海面水温(図b)、南北・東西風(図c,d)とエルニーニョインデックスの間の相関係数。エルニーニョ発生時には高気圧性の風が発生するため、クロロフィルの低下、水温の上昇が見られた。エルニーニョ発生時に時計周りの海流も見られた(図e)。

(4)第3回アジア海色ワークショップ2015の開催

2015年12月8-10日に第3回アジア海色ワークショップをJAMSTEC横浜研究所で主催しました。主に日本、韓国、中国、東南アジアの科学者が参加し、幾つかの新しい共同研究を構築しました。

研究成果

福島原発事故由来の放射性セシウムの海洋内での挙動調査研究
ー放射性セシウムが付着した福島沖海底堆積物の再懸濁・水平輸送ー

Buesseler, K.O., C.R. German, M.C. Honda, S. Otosaka, E.E. Black, H. Kawakami, S.J. Manganini and S.M. Pike (2015) Tracking the fate of particle associated Fukushima daiichi cesium in the ocean off Japan. Environmental Science and Technology 49, 9807-9816, doi: 10.1021/acs.est.5b02635.
(2015.8.15 プレス発表)

→海底堆積物から放射性セシウムがなくなるのはいつ?

インド洋ダイポール現象発生時に検出された
山火事で排出されたエアロゾル粒子による海洋生物生産の増加

Siswanto, E (2015) Atmospheric deposition—Another source of nutrients enhancing primary productivity in the eastern tropical Indian Ocean during positive Indian Ocean Dipole phases. Geophysical Research Letters, 42, doi:10.1002/2015GL064188.

熱帯東インド洋において、正のインド洋ダイポール現象発生時には低次生産量が高まることが観測から示された。従来指摘されてきた沿岸湧昇の強化による栄養塩供給だけでは、低次生産量の増加を十分に説明できないことが明らかとなった。湧昇に加えて、インドネシアでの山火事から排出されるエアロゾル粒子に含まれる栄養塩の供給も重要であることを指摘した。

西部北太平洋のクロロフィル長期変動傾向の検出

Siswanto, E, Honda MC, Matsumoto K, Sasai Y, Fujiki T, Sasaoka K, Saino T (2016) Sixteen-year phytoplankton biomass trends in the northwestern Pacific Ocean observed by the SeaWiFS and MODIS ocean color sensors. Journal of Oceanography. doi:10.1007/s10872-016-0357-1

この16年間の間(1997 - 2013)に高緯度において植物プランクトンのクロロフィルの増加傾向が観測された。それは海面水温が上昇することによって植物プランクトンの成長率が高まるということが原因である。さらに、観測されたクロロフィルの増加傾向はアリューシャン低気圧の弱い傾向と関連すると示唆された。

K2S1プロジェクト・一次生産の季節変動 ー亜熱帯海域は非生産的なのか?ー

K. Matsumoto, O. Abe, T. Fujiki, C. Sukigara and Y. Mino (2016) Primary productivity at the time-series stations in the northwestern Pacific Ocean: Is the subtropical station unproductive?, Journal of Oceanography, doi: 10.1007/s10872-016-0354-4

亜熱帯域では光合成で固定した炭素の多くが溶存態の炭素(DOC)と呼吸によって細胞外に排出されている。DOCとして細胞外に排出された炭素を一次生産として含めると、従来の貧栄養で非生産的だと思われていた亜熱帯域に位置する測点S1はむしろ生産的であることが示唆された。