トップページ > JAMSTECニュース > 海洋地球研究船「みらい」大航海 SORA2009

海洋地球研究船「みらい」大航海

SORAレポート

2009年6月17日

MR09-01 CTD/採水観測

Leg2乗船研究者:CTDチーム

この航海の観測の主役はCTD/採水観測です。海水の電気伝導度(Conductivity)、水温(Temperature)、および、測器の深度(Depth)を計測するセンサー(CTD)と、海水を採取してくる採水システムで構成されています。

観測前にニスキンボトルを採水装置にセットします。ニスキンボトルの上下の蓋を開口し、それを蓋に取り付けたテグスを用いて引っ張り、採水装置のトリガーに掛けます。船上装置から採水装置に信号を送るとトリガーが作動しテグスが外れ、ニスキンボトルの上下蓋が閉まり海水をニスキンボトルに取り込むことができます。
この航海で使用している採水装置には36本のニスキンボトル(12リッター)を取り付けていますので,36層の任意の深さから海水を採取することが可能です。最も浅い層は10m、深い層は「海底直上10m」の深さの海水を取ってきます。

「海底直上10m」は、CTD採水システムに取り付けた高度計(Altimeter)のデータから判断します。高度計は海底に向けて発信した音波が海底で反射して戻ってくるまでの時間から海底までの距離を求めるものです(海水中の音波伝播速度は約1500m/s)。
この高度計を使えば簡単に「海底直上10m」まで到達できるように思えますが、海底の状態は目で見ることはできません。特に、海山の斜面上で観測している場合は、高度計からの反応も不安定になり、時折感知するデータを確認しながら慎重に慎重にCTD採水器を降下させ「海底直上10m」を目指します。常に海底に衝突するのでは無いかという想いを胸に…。そして、これはCTDオペレーションで最も緊張する場面で、回りにいる人も固唾を呑んで見守ります。このように緊張を強いられるCTDオペーレーションチームには、チリからの研究者も参加しており、流暢な(?)日本語でオペレーションを担当しています。

この航海で使用しているCTDには、電気伝導度センサーと水温センサーが2セット搭載されています。それぞれのセンサーの出力値を比べることでセンサーの調子をモニターしています。また、どちらかのセンサーにクラゲの付着などによる異常(よくあります)が見られても、もう一方のセンサーで得られたデータを使用すれば観測をやり直す必要が無いので効率的です。これらの水温センサーを補正するために、非常に高精度な基準水温センサーも搭載しています(過去5年間の経時変化の大きさは0.0005℃以下)。応答速度が遅いので採水層でのデータしか利用できませんが、この基準センサーを使うことで、CTDの水温センサーを0.001℃の不確かさで補正することができます。
この航海の観測線は、南極周辺で冷やされて海底まで沈み込みトンガ−ケルマデック海嶺の東側に沿って北太平洋へ向かって北上する底層水を捉えています。今回観測された最も冷たい海水は6400m深の約0.6℃でしたが、15年前の観測結果に比べて約0.03℃も暖かくなっていました。変化の原因を詳しく調べる必要がありますが、苦労して取得したデータは、6000mを超える深海でも確実に変化が起こっていることを私たちに教えてくれます。