亜熱帯高気圧とマスカリン高気圧

赤道付近では暖かい海の上で地表の風が収束して上昇し,大量の雨が降っています。上昇した空気は亜熱帯(緯度30度付近)で下降して,地表付近に亜熱帯高圧帯を形成しており,図のように海上で特に気圧が高いことがわかります。この海上の高気圧は,「亜熱帯高気圧」と呼ばれており,北半球では時計回り,南半球では反時計回りの循環(地衡風)を伴っています。亜熱帯高気圧は,周辺地域の風や気温,降水に影響を与えるだけでなく表層海流を駆動し,地球の気候形成において重要な役割を果たしています。

亜熱帯高気圧が海上で強い主な原因は,亜熱帯では陸に比べて海が冷たいことです。亜熱帯の海は,特に東側で,中緯度からの冷たい風・寒流・沿岸湧昇・下層雲による太陽光反射などにより,表層水温が低くなっています。実際,亜熱帯高気圧の中心は,おおむね海の東側に偏っています。

太平洋と大西洋の亜熱帯高気圧は年間を通じて東側の海に中心がある一方で,南インド洋の亜熱帯高気圧(「マスカリン高気圧」とも呼ばれます)は南半球の冬季(図b)になると勢力を強めながら中心を西に移していることがわかります。他の海域と異なるこの顕著な季節性のメカニズムは,最近ようやく明らかになりつつあります。最新の研究から,中緯度南インド洋における暖流のアガラス海流系からの熱放出に維持された活発なストームトラック(温帯低気圧)活動が,冬季マスカリン高気圧強化に重要であることが明らかになりました。また,同時期の北半球では,夏季アジアモンスーンによりアジア周辺で大量の雨が降っており,これに伴う凝結加熱が赤道を超えて冬季マスカリン高気圧に影響していることも示唆されています。このように,冬季の南インド洋は,中緯度と熱帯の両方から影響を受け,独特の気候系が形成されていることが分かってきました。

月平均海面気圧(色)と風(矢印)。(a)は1月,(b)は7月の気候値を示しています。

宮本 歩(東京大学 先端科学技術研究センター)